東京地方裁判所 昭和48年(ワ)4734号 判決 1975年3月31日
原告
平野敏男
右訴訟代理人
堂野達也
外二名
被告
ミツワ交通株式会社
右代表者
藤本喜正
右訴訟代理人
菅原隆
主文
一 被告は原告に対し二六〇万〇八〇八円及びうち二三六万〇八〇八円に対する昭和四八年八月二九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一 請求の趣旨
一、被告は原告に対し六九八万五三七九円及びうち六四八万五三七九円に対する昭和四八年八月二九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
第二 請求の趣旨に対する答弁
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第三 請求の原因
一(事故の発生)
原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。
(一) 発生時 昭和四五年一月七日午後〇時四五分頃
(二) 発生地 東京都新宿区東五軒町四五番地先交差点
(三) 被告車 普通自動車(足立五か一二八五号)
運転者 小林光夫(以下小林という)
(四) 原告車 単車
運転者 原告
被害者 原告
(五) 態様 右折のため交差点中心付近で停止中の原告車に被告車が衝突したもの。
(六) 被害者原告の傷害部位、程度
1(傷病名) 後頭部打撲、頭蓋内硬膜下血腫、右下腿骨折
2(治療経過) 昭和四五年一月七日から同月一三日まで東京厚生年金病院に、同日から同年二月二二日まで東大医学部付属病院に入院、同月二三日から昭和四八年三月一四日まで同病院脳神経外科に(実日数一八日)、昭和四五年二月二三日から昭和四七年二月一七日まで(実日数一六日)同病院整形外科に、昭和四五年四月一七日から昭和四六年六月三〇日まで(実日数一七〇日)北原接骨院に、昭和四五年八月九日から昭和四七年三月二二日まで(実日数二七日)浪越指圧センターに通院治療
(七) 後遺症
(イ)脳波異常、痙攣発作がありこれは労災等級九級に該当し、(ロ)右足関節運動制限、関節裂隙狭少がありこれは労災等級一〇級に該当する。
二(責任原因)
被告は被告車を保有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。
三(損害)
(一) 治療関係費 三七万一六一〇円
1 付添看護費 一四万一〇〇〇円
原告の妻が昭和四五年一月七日から同年二月二二日まで四七日間付添看護し、一日当り三〇〇〇円宛の付添費を要した。
2 入院雑費 一万四一〇〇円
一日当り三〇〇円の割合で四七日分
3 松葉杖等購入費 一万四八一〇円
松葉杖(二三二〇円)、丁字杖(七九〇円)、靴型装具(一万一七〇〇円)各購入費
4 通院交通費 七万五八〇〇円
(1) 東大付属病院への転院費
六九〇〇円
(2) 東大付属病院への通院費
一万七六八〇円(片道二六〇円、往復三四回分)
(3) 北原接骨院 四万四二〇〇円(片道一三〇円、往復一七〇回分)
(4) 浪越指圧センター七〇二〇円(片道一三〇円、往復二七回分)
5 快気祝費用
一二万五九〇〇円
(二) 休業損害 二二万円
原告は、有限会社平野モータースの代表者であるところ、本件事故により休業を余儀なくされ、前年に比し、昭和四五年の給与所得は二二万円減少した。
(三) 逸失利益 五四七万三七六九円
原告は、前記後遺症により、次のとおり将来得べかりし利益を喪失した。その額は五四七万三七六九円と算定される。
(稼働可能年数) 一二年
(労働能力低下の存すべき期間) 一二年
(収益) 年額一三二万円
(原告は有限会社平野モータースを経営していたが本件当時、同社は資本金四〇万円、従業員二名、総売上高月六〇万円、純利益一二万円程度、原告の代表者としての給与所得は昭和四四年の年額一三二万円であつた。)
(労働能力喪失率) 四五パーセント
(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。
(四) 慰藉料 二一〇万円
原告の本件傷害及び後遺症による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情に鑑み右の額が相当である。
(五) 損害の填補 一六八万円
原告は、自賠責保険から既に一六八万円の支払を受け、これを前記損害金の一部に充当したのでこれを前記損害金から控除する。
(六) 弁護士費用 五〇万円
本件事案の内容、損害額を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は五〇万円を下らない。
四(結び)
よつて被告に対し、原告は六九八万五三七九円及びうち六四八万五三七九円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年八月二九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第四 被告の事実主張
一(請求原因に対する認否)
第一項中(一)ないし(四)は認める。(五)のうち原告車が停止中であつたことを否認し、その余は認める。(六)、(七)は認める。
第二項は認める。
第三項中、原告が事故当時平野モータースの代表者であつたこと、休業損害及び原告が自賠責保険金一六八万円を受けとつたことは認め、その余の事実は否認する。
原告は有限会社平野モータースその他の事業を経営しており、文京区長の説明によれば、昭和四四年度は一三二万円、昭和四五年度は一一〇万円、昭和四六年度は一八〇万円の所得があり、その後も順調に所得をえているのであつて、本件事故により、原告主張の如き後遺症による減収が生じた形跡はない。
二、抗弁
(一) 過失相殺
原告は、本件事故直前事故現場において原告車に乗車し、飯田橋方面から文京区方面に向つて車道幅員20.6メートルの舗装された車両交通の多い路上を右折しようとしたものであるが、かゝる場合、原動付自転車の運転者たるものは、予めできるだけ道路中央付近に寄り右折の合図をし徐行しつつ右折すべき注意義務があるにも拘らず、被告車及びこれと並進する自動車が後方約二五メートル付近に接近しているのに、これらの自動車に対する安全を何ら確認することなく、原告車進路左側端(南端)より、片側三車線の路上を合図をすることもなく突然右折を開始した重大な過失により本件事故を惹起したものである。
従つて事故発生については被害者原告の過失も大きく寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。
(二) 損害の填補 六四万三六九五円
被告は、本件事故発生後原告の治療費六四万三六九五円の支払をしたので、右金額のうち過失相殺により原告の負担に帰すべき金額を本訴請求額から控除すべきである。
第五 抗弁事実に対する原告の認否
一、抗弁(一)の過失相殺の主張は争う。
原告は、原告車を運転し、本件交差点で右折するべく尾灯により合図をし、交差点中心付近で停止していたところを、制限速度をこえる速度でセンターライン上を走行してきた被告車(後続車)に追突されたものである。
二、抗弁(二)の被告主張の治療費の支払を受けたことは認め、その余の主張は争う。
第六 証拠関係<略>
理由
一事故の発生と責任原因
(一) 請求の原因第一項(原告車が停止中であつたことを除く)、同第二項は当事者間に争いがない。
従つて、被告は本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。
二損害
(一) 損害
1 治療関係費 一三万三八一〇円
(1) 付添看護費 三万六〇〇〇円
<証拠>によれば、原告の入院中原告の妻が、少くとも三〇日以上付添看護したことが認められる。この事実に前認定の原告の傷害部位、治療経過を併せ考えると原告は、一日当り一二〇〇円の割合で三〇日分合計三万六〇〇〇円を下らない付添看護費を要する損害を蒙つたものと認めるのが相当である。
(2) 入院雑費 一万四一〇〇円
前認定の原告の傷害部位、入院期間に、原告本人尋問の結果を併せ考えると、原告は入院期間四七日間につき一日当り三〇〇円宛の雑費を要したものと推認される。
(3) 松葉杖等購入費
一万四八一〇円
<証拠>により原告主張のとおり認められる。
(4) 通院交通費
六万八九〇〇円
東大附属病院への転院費はこれを認めるに足る証拠がない。その余の原告主張の交通費については、前認定の原告の傷害部位、治療経過と原告本人尋問の結果により認められる。
(5) 快気祝費用
本件事故と相当因果関係ある出捐とは認められない。
2 休業損害 二二万円
当事者間に争いがない。
3 逸失利益 四一一万円
(1) <証拠>を併せ考えると原告は、本件事故当時自動車修理業を営む資本金四〇万円の有限会社平野モータース(以下会社という)を経営し、その代表者として昭和四四年中の総所得金額一四三万八三六四円、給与所得一三二万円を得ていたことが認められる。
(2) 原告の後遺症の部位、程度は前記認定のとおりであるが、<証拠>によれば、昭和四七年一二月七日付で東京大学医学部附属病院整形外科において足関節底屈自動左四〇度、右二〇度、背屈自動左三〇度、右〇度、体重負荷時疼痛あり、将来脛距骨間の関節固定手術が必ず必要と思われるとの診断がなされ昭和四八年三月一四日付で、同病院脳神経外科において、痙攣発作抑制のため長期投薬が必要との診断がなされていること、昭和四九年七月現在の自覚症状としては、常時右足関節に鈍痛があり、特に起床後一時間位が最も痛むこと、走つたり、跳んだりすることは出来ず長い距離は歩けないこと、人目につかないところでは跛をひいていること、しばしば頭痛(鈍痛)におそわれ、根気がなくなり張り詰めて仕事をできなくなつていることが認められる。
(3) <証拠>によれば、事故前会社で働いていたのは、原告、その子、の外従業員一名でその他に原告の妻が、原告と共に経理関係を扱つていたこと、原告が本件事故に遭遇した昭和四五年の原告の総所得金額は一二八万六五一五円、給与所得は一一〇万円になつたこと、原告は事故後は、前記後遺症のため重い物が持てず、根気も続かないため、会社の業務である自動車修理の仕事につけず、専ら原告の子と従業員一名にこれを任せ、原告は会社の経理事務や受注の面のみを受け持つことを余儀なくされ、やむをえず事故以前から兼ねていた保険会社代理店の営業に力を注ぐことにしていること、会社の方は原告の子と従業員が原告の分まで働き、特に原告の子は月に六〇時間位の残業をして会社の収益の減少を防止するよう努力していること、原告は会社から月給の形で収入を得ているので、会社の収益が原告の給与に影響して来ること、本件事故にあわなければ原告は自動車修理業を永く続けるつもりであつたことが認められる。<証拠>によると原告の昭和四六年中の総所得金額は二〇二万八六二九円、給与所得は一八〇万円であり、総所得金額は昭和四四年より約五九万円、昭和四五年より約七四万円増加していることが認められる。しかしながら右の一事をもつて直ちに原告には労働能力を喪失したことによる損害がないものと認めることは相当でない。何故ならば、(イ)一般に企業の発展、物価の上昇等による売上高の増加分を斟酌すると原告が事故にあわなければ会社はより以上の収益が得られ、それに伴つて原告の収入も増えたことも推認できなくはないこと(ロ)会社は原告とその子のいわゆる個人会社であり、原告が給料名義で如何なる金額を取得するかは、必ずしも原告の労働能力や寄与率に応じて定められるものではなく、或程度自由裁量がきくわけであるから、原告が実質上会社のため働けない状態であつても必ずしも給料を減額されないこと(ハ)会社の収益の中には、原告が受傷しその後遺症のため働けない部分を、前認定のとおり原告の子や従業員が従前以上の労働をすることによつて原告の労働を補つて得られたものが相当額あり、このようにして維持された企業の収益が、原告の給料名下の収入にまわされているともいえること(ニ)原告は前記後遺症のため、永年培かつた技術と信用をもととする会社の仕事は子らに任さざるをえず、自己は専ら保険会社代理店の業務に力を注ぐことに切り替えたものであるが、右営業に関し、一時的には相当額の収益が得られるとしても、その永続性、安定性については何らの保障もないこと(ホ)右保険会社代理店業務は原告が会社の仕事が不可能になつたため力を注ぐことになつたわけであるが、それに要する時間、労力は従前に比しさほど大きなものでない(この事実は原告本人尋問の結果により認められる)ところから、もし原告において後遺症がなければ、会社の労働と保険会社代理店業務の双方(代理店業務は多少制約を受けるであろうが)を営み従前に比し、高額の収入をあげることも可能であつたと推認されること(ヘ)将来原告の子が独立したり、会社や保険会社代理店業務の業績が衰退したりした際原告が転職を余儀なくさせられ肉体労働に従事するとなると後遺症により服する労務に制約を受け再就職の困難性、賃金低下等の負担を負うことは明らかであること等の事情を併せ考えると、本件事故後一年後に原告には減収がないかの如き外観を呈しているからといつて労働能力喪失による損害が全くなかつたと速断することはできない。その他には原告には損害の発生がないことないしは損害が十分填補されていることの反証もない。
そうとすれば、前認定の各事情の外、原告の年令(原告本人尋問の結果から事故時四五才であつたことが認められる)、労災補償保険上労働能力喪失率の基準とされていることが職務上顕著である労働基準監督局長通牒(昭和三二・七・二基発第五五一号)を併せ考え、原告は本件事故により昭和四六年一月七日から二〇年間にわたり労働能力を喪失し、その割合は平均すれば約二五パーセント程度と認めるのが相当である。
そこで原告の収益を年収一三二万円とし、年五分の中間利息をライプニツツ式計算法により控除して昭和四六年一月六日における現価を算定すると次のとおり四一一万円(万円未満切捨)となる。
1320000×0.25×12.4622=4112526
以上の認定判断に反する証拠は他にない。
4 慰藉料 二七〇万円
原告の本件傷害及び後遺症による精神的損害を慰藉すべき額は、前認定の原告の傷害及び後遺症の部位、治療経過等一切の事情(但し、原告の過失の点を一応度外視する)を併せ考え二七〇万円が相当である。
5 総損害 七八〇万七五〇五円
以上により原告の損害は七一六万三八一〇円となるところ、原告はその外に治療費六四万三六九五円を要したことは当事者間に争いがないので、総損害は七八〇万七五〇五円となる。
(二) 過失相殺
<証拠>、前認定の事故発生についての争いない事実を併せ考えると次の事実が認められる。
1 本件事故現場は、飯田橋方面(東)から江戸川橋方面(西)に通ずる幅員約二〇メートル、平垣な片側三車線のアスファルト舗装の道路(以下本件道路という)と同道路から北行する幅員約九メートルの道路が交わつて形成されるT字型交差点内である。同交差点東側、西側には横断歩道があり、本件道路上を進行する車両及び横断歩行者に対し信号機により交通整理が行われている。制限時速は四〇キロメートルである。本件道路北側、南側には幅員約三メートル余の歩道がある。同道路を西進する車両にとつて前方の見とおしは非常によい。事故当時交通量は少なかつた。
本件道路中央付近に飯田橋方面から江戸川橋方面に向けスリップ痕が三本ついており、別紙④付近にガラス破片が四メートル四方に散乱していた。現場の概況は別紙見取図のとおりである。
2 被告車はフロントガラスが破損し、前部左側前照灯が内側に約一センチメートル凹損し、左側前輪上部フェンダーが後方に引き裂かれるようにはがれており、三センチ四方の穴があいていた。前部バンパーは中央付近から左側部がボデー寄りに約一センチ曲損し、左前輪のホイルキャップにも凹損が認められ、左サイドミラーが後方にやゝ曲損していた。
原告車は右ステップが後方に曲損し、右側マフラカバーが外側に曲り、前照灯左側がやゝ凹損、車両全体がやゝ左側に曲損していた。
3 右認定事実と証人小林光夫の証言によれば、次の事実が認められる。
小林は被告車を運転して本件道路中央線寄り(左側―進行方向に向つて。以下同じ―から約八メートルの地点)を時速約七〇キロメートルで西進し、本件交差点を青色信号に従つて通過しようとしたところ、同交差点内の自車左斜前方約三〇メートルの地点に原告車を初めて発見した。
それ以前小林は、被告車の左斜直前第二車線上を先行車(四輪車)が走つていたため、原告車の存在には全く気付いていず、右先行車が、原告車の左側を避けて通過したため初めてこれを認めた。右先行車は急ハンドルを切つたがクラクションもならさず、急ブレーキもかけていない。小林は原告車を認め危険を感じ直ちに急ブレーキをかけ、右にハンドルを切つたが間に合わず、別紙見取図点で原告車前輪付近に被告車前部左側ライト付近を衝突させ、④で停止した。
小林は本件道路はいつも通るので、道路状況はよく知つていた。前掲乙第一号証中の小林の指示説明中右認定に反する部分は、当裁判所で同人自身が証人としてこれを否定するところであり、発見から衝突までがごく短時間のことであるから、同号証中の記載ほど余裕ある行動はとれなかつたものと認められ、これを採用しない。右認定に反する証人高橋常明の証言が採用しえないことは後に説示するとおりである。
4 ところで原告車の事故直前の行動につき、原告が飯田橋方面から西進して来て本件交差点に進入した後右折しようとしたことは、原告本人尋問の結果から明らかであるが、それ以上の行動については本件全証拠によつてもこれを確定しがたい。すなわち、証人高橋常明は、被告車と同方向に進行した原告が、予め右折の合図をし、交差点手前から道路中央に寄り徐行して本件交差点を右折しようとしたと供述するが、他方証人嵯峨根滋美は、原告が、原告車にまたがり本件道路南側の歩道に足をかけて西を向いて止つていた後急に右折し、被告車の直前を横断したと供述し、右高橋証言は被告車運転者の小林の供述とも相いれず、いずれが真実かにわかにきめ難いところ、原告本人は、事故直前の記憶を喪失しているし、その平ぜいの通行方法に関する供述から、事故当日の右折方法を直ちに推認することはできない。
その他成立に争いない乙第四号証は、証人嵯峨根滋美の当裁判所における供述とくい違いがあり、かつ前示の証人高橋常明の証言と相反することからたやすく採用し難く、他に被告主張を認めるに足る証拠がない。
従つて被告の過失相殺の主張については、前示認定の範囲で立証責任の法理に従い、判断する外ないところ、右事実によれば被害者原告には、右折に際し、右方又は後方を十分注意していなかつたこと、右折する際は、予め道路中央に寄つてから右折すべきであるのにこれを怠り、右折を開始したこと(前認定の事実から最も中央寄りの車線でなく少くとも第二車線からセンターラインに向つて進行していることになる)の過失があるものというべく、損書算定に際しこれを斟酌することになるが、更に前認定の小林の三〇キロメートルの速度超過、前認定の事実から推認される同人の前方不注視の過失等を特に考慮し、被告は原告に対し、前認定の原告の損害の六割にあたる四六八万四五〇三円を賠償すべきものと判断する。
(三) 損害の填補
二三二万三六九五円
原告が本件事故に関し、被告から治療費六四万三六九五円、自賠責保険から一六八万円の各支払を受けたことは、当事者間に争いがないので、これを前記賠償分から控除する。
(四) 弁護士費用 二四万円
以上により原告は被告に対し二三六万〇八〇八円の支払を求めうるところ、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告はその任意の支払をしなかつたので、原告はやむなく弁護士たる本件原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、着手金として二〇万円を支払い、事件終了後三〇万円以上の報酬を支払うことを約していることが認められる。しかし本件事案の内容、審理の経過、認容額に照らすと、原告が被告に負担せしめうる弁護士費用相当分は、二四万円が相当である。
三結び
よつて被告は、原告に対し二六〇万〇八〇八円及びうち弁護士費用を除く二三六万〇八〇八円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年八月二九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をする義務があるので、右の限度で原告の請求を認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(佐藤壽一)